無荒史談32-「読み人知らず」-君が代2008/01/04 19:11

わが君は千世にやちよにさざれ石の巌となりて苔のむすまで

古今集の第7巻賀の歌のはじめにある歌である。(番号343)

題しらず、読み人しらずとある。

この歌は現行の君が代とは第1句が異なっている。しかし、和歌がその文が変化することは良くあることである。この歌に相当するものが和漢朗詠集では君が代になっている。

百人一首の中にも数件ある。古今集では河原左大臣の歌が第4句が異なる次のものになっている。

陸奥のしのぶもじずりたれゆえに乱れんと思う我ならなくに

従って古今集のこの歌が君が代の本歌として-あるいは本歌が「君が代」で古今集の方が変化したかも知れぬ-考えてよいであろう。

ところで古今集の時代、「君が代」と言ってもこれを天皇制に結びつける解釈は存在しないのである。「君」はあくまでも第2人称の敬称に過ぎない。歌を捧げた天皇個人の場合は考えられるが、断じて天皇制ではない。

古今集の賀の歌の中で、次の歌がある。

仁和の御時僧正遍照に七十の賀たまひける時の御歌(番号347)

かくしつつとにもかくにもながらへて君がやちよにあふよしもがな

光孝天皇の御製であり、臣下である僧正遍照を「君」と呼んでいる。

この外にも古今集の中に「君」という表現がいくつかあるが、天皇と結びつけられるものはない様だ。

結論を言えば、文部科学省では、「君が代」の解釈として原作が作られた古今集の時代と異なった解釈を国民に押しつけていることになる。子供か成長して古今集を読む時、混乱しかねないのである。

ただ、国歌としての「君が代」の場合、今上陛下のご長寿を祝ったり祈ったりする意味をこめて君を今上陛下とする解釈は成り立つと思われる。あたかも大英帝国国歌が“King”と“Queen”を使い分けている様に。-現在は女王陛下の治世であるので“Good save the Queen”-

君が代の作者は誰か手懸かりもない。何故「読み人しらず」になったのかその理由もはっきりしない。